皇位継承と女系天皇

女系天皇」で検索すると基本的には否定的な意見のページばかりヒットする。容認派の私にとってはかなり意外だったので何がそんなに問題視されているのか、否定派の論拠を目に付いたものだけ纏めてみよう。


・男系継承は現在まで一度も破られたことのない伝統である。

女系天皇の即位は天皇家の消滅を意味する。

女系天皇の即位は万世一系/皇位の正当性を破壊する。

天皇は初代神武天皇Y染色体を持っていなければならない。(!?)


ふむ。

これらの主張について書く前に知識の整理を兼ねて二つほど書いておきたいことがある。


一つ目、「女系天皇について」

女系天皇とは一般的に「女性の先祖を通じて皇統に連なる天皇」として定義される。要は先祖を遡って初代神武天皇までたどり着く間に必ず女性を経由しなけらばならない天皇のことである。女性を経由して"も"遡れる天皇は非常に多い(というか古代の天皇は皇族の女性を正妃としていた)が、経由"しなければならない"天皇は今まで一例も無くこの点がが批判の中心になっている。

因みにそもそも現在日本国憲法下で皇位継承について取り決めている皇室典範では皇位継承は「皇族の男系男子」のみに限られており、女系天皇の即位は認められていない。ではなぜ議論の対象になっているのかといえば(議論になっていることをご存じでない方もいるだろうか)、典範の皇位継承権に関わる条項の改訂が急務だからである。

現在平成30年8月時点で皇位継承権を有するのは

徳仁殿下(皇太子)

文仁殿下(皇子)

悠仁殿下(皇孫)

・正仁殿下(皇弟)

の四名である。

来年予定されている皇位継承を経れば三名となるが、皇弟たる正仁殿下は既に御高齢であり継承権順位が最下にあらせられることを鑑みれば、将来の皇統を担われる可能性は限りなく低い。
加えて皇太子徳仁殿下もその弟君たる文仁殿下も新たな御子を望みにくい御歳であることを踏まえると、現時点で将来の皇統の維持は偏に皇孫悠仁殿下ただ御一人に掛かっている。

この不安定な状況を解決するために皇位継承権の対象を拡大することが必要であることは少なくとも天皇制の支持者であれば論を待たないところであろうが、問題はどう広げるかという点である。現在が「皇族の男系男子」なので、いじるところと言えば「皇族」か「男系男子」である。(「男子」だけ変えて女帝を認めるという選択肢は無いのかと言われるかもしれないが、男系縛りの中では女帝は自身の血統を皇統に直接残すことができない)

「皇族」の方をいじれば、皇籍離脱者の復籍、特に旧宮家の復活が視野に入る。

一方「男系男子」の方をいじれば、女系天皇の容認が必要となる。

先述した通り後者は天皇家の歴史の中で先例のないことであるが、では前者はというとこちらもかなり微妙である。
傍系継承は歴史の中で何度も行われてきており皇籍への復籍を経て即位に至った天皇も二例のみ存在する(五十九代宇多天皇、六十代醍醐天皇)。しかし現在の皇族以外で天皇家に名を連ねることが明確な「旧宮家」は百二代後花園天皇の御父上、伏見宮貞成親王から現在の皇族と分岐した系譜であり、二十代600年近く隔てられている。いくら傍系継承が何度もあるとは言えここまで大きく離れたケースは一度も無い。(これまでの最大は二十六代継体天皇への継承に十五代応神天皇まで遡ったケースか、南北朝合一に際して百代後小松天皇への譲位に八十八代後嵯峨天皇まで遡ったケースである。)


二つ目、「皇位の正当性について」

現在に限って言えば、その地位は日本国憲法第1条に基づき皇室典範によって規定されている。現在の皇位継承規範である典範を改訂するには過去の例を参照するしかない。即ち帝国、或は封建制時代の天皇の在り方を。

天皇の歴史は非常に古く最古層はもはや神話や伝説の域になっているため断定的に語ることはできないが、おそらくは近畿地方の統一者の家系である。統一者、あるいは征服者の子孫が支配者として世襲していくことは世界的にもよくあることであるが、古代の天皇は神話にその根拠を置いていた。

「葦原千五百秋之瑞穂國、是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫、就而治焉。行矣。寶祚之隆、當與天壤無窮者矣。(葦原千五百秋之瑞穂國(日本列島)は我が子孫の王たるべき地である。されば天孫よ、下って統治せよ。幸いあれ。皇位の隆盛は天地と共に限り無からん。)」

これは天照大神が自身の孫(天孫)ニニギに下した神勅で「天壌無窮の神勅」と呼ばれ、天皇家による日本の統治が神意であるとともに日本の繁栄に不可欠であることの根拠とされてきた。

要は大地の創造者の系譜を引き高天原(日本神話の天界)に座す太陽神天照が、自身の子孫による日本の支配を命じた(とされている)ということが重要な点である。


…さて、いったい何の話をしていたんだっけか。

そう、女系天皇反対派の意見を見ていたのだった。
取り敢えず分かりやすいものから見て行こうか。


天皇は初代神武天皇Y染色体を持っていなければならない。(!?)

女性天皇がブチ切れるぞ。

一応解説しておくとY染色体とはX染色体と共に性染色体と呼ばれている特殊な染色体で、通常は生物学的男性のみが有する。(女性はX二つ、男性はXY一つずつ)要はこの意見を取り入れると現在までに十代八人いる(うち二人は重祚と言って二度即位している)女帝も皇位継承権を持っていなかったことになる。いくらなんでもそれは無かんべ。天照大神Y染色体とか考慮してたとも思えないし……。


次。

女系天皇の即位は天皇家の消滅を意味する。
女系天皇の即位は万世一系/皇位の正当性を破壊する。

この二つは似たようなものなので同時に考えよう。
要は家父長制に基づく発想であろう。皇族女性と非皇族男性のもとに生まれた子供は非皇族の家系のものであり、皇統を担う家系の転換になってしまうという主張である。

言いたいことは分かる。分かるが、その発想を捨てれば良いだけだ。皇族女性は現在非皇族男性と結婚した場合速やかに皇籍を離脱することになっているが、これを逆パターンと同様婿入りさせる形で男性に皇族入りさせてしまえば良い。
この二十一世紀、女性が家督を継ぐと宣言しても支持は十分得られる時代だ。皇族とてそう変わりはしないだろう。一部の保守派の人は「女系天皇を皇統に連なるものと認めない」と主張するかもしれないが、天壌無窮の神勅に指定された「天照の子孫」であり、憲法一条に記されたように国民の総意による支持があれば、あとは典範を変えるだけである。

「皇室の破壊を目論む輩が皇族女性に近づき子供を即位させる危険性がある」といったような主張を目にしたことがあるが、これに関しても男女入れ替えたケースがすでに可能なのだから何をか言わんやというところである。

というか権力の掌握を目論んだ輩が自身の娘を皇室に入れてやりたい放題って話が千年くらい前にめっちゃあった気がするので、この危険性は女系天皇特有のものでは全くないのでは……。

いずれにせよ現在の皇室はその在り方がいろんな方向から雁字搦めに縛られているので、変なことを考えて取り入ってくる輩がいたところでその思惑は恐らく通らないであろう。


最後。

・男系継承は現在まで一度も破られたことのない伝統である。

この命題は概ね正しい。現在即位が認められている130代(北朝含む)の天皇はその全員が男系のみの遡上で神武天皇までたどり着くことができる。
じゃあやっぱり女系はダメじゃないか、という結論に落ち着くのはちょっと待ってくれ。大事なのは、これが女系を否定する理由たりうるのかということである。
124回繰り返されてきた皇位継承には、変わらない点もあれば変わってきた点もある。だが、後者のいかなる例も一回目の変化が訪れるまでは前者であったのである。初代から先代まで長く続けられてきたものを突然転換した継承が、これまでに何度もあったのである。
例を挙げていこう。

十四代 仲哀天皇
 初めて叔父から継承を受けた天皇である。それまで皇位継承は全て父子継承であった。しかし仲哀天皇の父である日本武尊は自身の父である十二代景行天皇よりも先に崩じてしまい、十三代は彼の弟の成務天皇になった。しかし成務天皇には皇位を継げる子供がいなかったようで、ここまで十三代続けられてきた父子継承の連鎖はここで途絶えた。

十八代 反正天皇
 初めて兄弟継承を受けた天皇である。それまでは上記の仲哀天皇も含めて全て尊属から卑属への継承であった。このケースは十七代履中天皇に子供がいなかったわけでもなかった(実際、履中天皇の孫は後に即位している)。

三十三代 推古天皇
 皆様ご存じ初めての女性天皇である。崇峻天皇暗殺という異常事態に際し、絶対権力者であった蘇我馬子に擁立されて即位した。この時は他に敏達天皇皇子が対立候補としていたにも関わらず推古天皇が優先されたことから、女帝という初のケースが積極的に支持されたことが分かる。

三十五代 皇極天皇
 初めて生前退位を行った天皇であり、かつ初めて重祚を行い再度の即位に至った天皇でもある。(三十七代 斉明天皇)また、二人目の女帝。

細かいことまでこだわりだすと他にも挙げられるが、兄弟継承、女帝、生前退位というのはかなり大きい点であろう。最後の皇極天皇の退位は645年であり神話の記述を鵜呑みにすれば初代神武天皇の即位から1300年、三十五代経て初めてのことであるにも関わらず、その後平安時代以降は頻繁に行われるようになった。
時に新たな形で皇位継承を行っていくのも、天皇の歴史の中ではごく自然なことと言えよう。


というわけでつらつらと書いてきたが、ここまで来て思うのは恐れ多くも天照大神の御子たる天皇の血筋の方々をその性別で区別せんとするその心の何と傲慢たることか。
この日の本の天壌と無窮たるに求められるは唯天照大神の子孫の王たるのみなれば、皇位を継ぎうる皇族が増えることは喜ばしいことでしかない。

旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし。

明治大帝が王政復古の大号令に続いて天に誓われたお言葉である。

天皇弥栄